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岡山地方裁判所 昭和45年(モ)423号 判決 1970年9月22日

申立人(債務者) 安井悦弥

被申立人(債権者) 斉藤太

主文

本件申立を却下する。

申立費用は申立人の負担とする。

事実

申立人代理人は、「当裁判所昭和四五年(ヨ)第四九号損害金仮払仮処分申請事件につき、昭和四五年二月二六日当裁判所のした仮処分決定は申立人において保証を立てることを条件として取消す。」との判決を求め、その理由として、申立人は被申立人の申請により、右申請事件につき、「申立人は被申立人に対し、仮りに昭和四五年二月から同四六年一月まで毎月末日限り、一万円宛の割合による金員を支払え。」との仮処分決定を受けた。しかしながら、この仮処分は昭和四四年二月九日、岡山市門田屋敷二丁目一の一九市道において、申立人運転にかかる普通乗用自動車(岡五ぬ一三〇一)と被申立人乗車の自転車とが衝突し、被申立人が第二腰椎圧迫、左側胸部打撲傷等の傷害を負い、これによつて生じた同人の損害の賠償債権を被保全権利としてなされたものであつて、それが金銭的補償を得ることによつて目的を達しうべきものであることは明らかであるから、民訴法七五九条にいわゆる「特別の事情」に該当し、申立人において右仮処分の定める仮払金相当額の保証を立てることを条件として本件仮処分の取消を求めると述べた。

被申立人代理人は、主文同旨の判決を求め、被申立人が申立人主張の被保全権利につき、その主張のように当裁判所から本件仮処分決定を得たことは認めるが、本件仮処分は、被申立人が本案判決の執行による権利の実現を待つていたのでは、その主張の交通事故により収入の途を閉された被申立人として日々の生活が窮迫する実情にあつたためなされたものであつて、被保全権利がたとえ金銭的補償を得ることによつて目的を達しうべきものであつても、右事由の存する以上、これを取消すべきではないと述べた。

理由

当裁判所は、申立人の主張する被申立人の被保全権利につき、その主張のような仮処分決定をしたが、右被保全権利が金銭債権であることは明らかである。

しかしながら、右仮処分は、被申立人が申立人主張の本件事故により蒙つた傷害のため、岡山県立岡山東商業高等学校警備員の職を失い、同校PTAから支給されていた給料収入を失い、蓄財の乏しい被申立人として、日々の生活が窮迫し、かつ右決定当時七〇才の高令で、たとえ傷害が癒えても収入をうる途を講ずることができないような情況にあることが疏明された結果、これをなしたものであるから、たとえ申立人が右決定の定めた仮払金全額の保証を立てても、被申立人が本件仮処分の取消によつて受ける不利益と申立人が本件仮処分の存続することによつて蒙る不利益(申立人はこの疎明をしない。)とは較ぶべくもないから、民訴法七五九条のいわゆる「特別の事情」ありと認めることは相当でない。

よつて本件申立を却下することとし、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 裾分一立)

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